SF・ミーツ・ドキュメンタリー!

「DARK STAR  H・R ・ギーガーの世界」

SF映画研究家 Dr.G.Hotter(G・ホッター)

ハンス・ルドルフ・ギーガー(H・R・ギーガー)はスイス出身のシュールレアリズムの画家である。シュールレアリズムは日本語では「超現実主義」という。それ以上は説明せぬ。

さて、ギーガーはSF 映画マニアにとっては神のような存在だ。なぜなら1979年公開のリドリー・スコット監督作品「エイリアン」のクリーチャーをデザインしたお方だからである。このデザインはあまりに斬新で衝撃的でブッ飛んでいた。それまで異星人、宇宙人、特に侵略者とか悪い奴のデザインというのは大体パターンが決まっていた。怪獣、猛獣的な動物系、イカ、タコ、エビ、カニ等を模した海洋生物系、お目めの大きな昆虫系(BEMという)、植物系、ロボット系、「ワレワレハ」とかしゃべったりするようなヒューマノイド型、人間の身体乗っとり型、形が変化する不定形型等々。シンプルに言えば「人の想像の範囲内」だった。

しかしギーガーのデザインは全く違った。「人の想像の範囲外」としか言い様のない、一度見たらトラウマになるようなものだったのだ。クリーチャーの頭部は後ろにニョ~ンと伸びていて男性の○×△のようである。生物のようにも機械のようにも見え、長いしっぽは恐竜の骨のようでもある。こわっ。口のなかから歯の生えた舌が出てきて相手を攻撃する。あー気色わる、あー気色わる。

ギーガーは頭蓋骨や脊椎等人間のパーツと機械的なものを組み合わせた「バイオメカノイド」という独自のスタイルからこの生物をデザインした。それはグロテスクでリアルで、人に生理的嫌悪感を抱かせ、それでいて、ある意味洗練された美のようなものを感じさせるものであった。美のようなものを感じたあなたは私と同類である。

スコット監督をして「他のデザイナーのは動物園から出てきたようなものだったが、ギーガーのはまるで悪夢から生まれたようなものだった」とまで言わしめたのだ(英語で)。

ギーガーはこの作品でデザインだけでなく造形にも携わり、見事アカデミー賞の視覚効果賞を受賞したのであった。映画は大ヒットし、その後40年続編が作られる人気シリーズとなった。尚、「エイリアン○○」という何の関係もない亜流作品が無数に存在するので気をつけるように。

エイリアンという言葉は本来「異邦人」という意味であったが、今やすっかり異星人、というか殆どの皆さんが頭部が後ろに伸びた「あの」ギーガーのデザインしたエイリアンそのものを即座に連想するようになってしまった。連想しない人は山奥とか世間から離れて暮らしてたって事?…。

ギーガーはその後、映画に関する仕事が増え、「スピーシーズ」「ポルターガイスト2 」「Dune 砂の惑星(D ・リンチ版)」等のデザインを次々と手掛ける事になり、映画だけでなく、彼の芸術そのものが世界的に受け入れられていった。それまで手掛けていたレコードジャケットの仕事等も更に増えた。(ELP 「恐怖の頭脳改革」が有名。)

「Dark Star」 はそのギーガーという人物そのものにスポットを当てたドキュメンタリー映画である。のっけからギーガーの家が出てくるが、都会の真ん中に森があり、その中に家がある。そして家の周辺にはギーガーのデザインしたオブジェや骸骨の顔をした列車の模型(乗ることもできる)がシュッシュッポッポと走っている。何てシュールな…。

カメラが家に入るとおびただしい量の作品(絵画や造形物)が飾ってある。これはホラー映画か…このギーガーという人は一体?名前もガ行だし。

ギーガーは子どもの時に父にもらった頭蓋骨にインスパイアされ、この道に入ったという。どういう父親だろう。そして「誕生」、「生殖」、「死」をテーマに、絵画、イラスト、造形物等を生涯作り続けた。
私事だが高校生の頃、ギーガーのデザイン画集「ギーガーズ・エイリアン」を見た時は衝撃だった。(高校生がそんなの買うなよ。)そこには彼がデザインしたエイリアンの幼体~成体までの3形態(フェイスハガー、チェストバスター、ビッグチャップ)や宇宙船等が描かれ、どれも斬新だった。2014年にギーガーは亡くなったが、1979年以降現在に至るまであのデザインを超えるクリーチャーが出てきた映画を私は見た事がない。

そして今後、永遠に見ることはないと思っている。

※2016年発行サポーター通信の原稿を一部修正

「DARK STAR H・R・ ギーガーの世界」
2014年 /99分
監督:ベリンダ・サリン 出演:H・R ・ギーガー
公式HP:http://gigerdarkstar.com/
予告編:https://youtu.be/9QlfDyvkGjA