SF・ミーツ・ドキュメンタリー!

「メイキング・オブ・スリラー」

SF映画研究家 Dr.G.Hotter(G・ホッター)

先ごろ「スリラー40周年記念エクスパンデッドエディション」というCDが発売された。全世界で1億枚を売り上げたマイケル・ジャクソン(以下MJ)のモンスターアルバムの最新リイシュー版である。恐らくファンやマニアは「また買わせんのか!💢」と文句を言いながら大喜びしている事だろう(←私)。今回はボーナストラックのデモ音源等がこれまでのCDより更に充実して聴き応えもバッチリ。アルバム中のロックチューン「ビート・イット」における故エディ・ヴァン・ヘイレンのギターソロを真似て当時全国の中学生が腱鞘炎になったとかならなかったとか本来そういう話をいっぱい語りたいところだが…ここは涙を飲んで米国議会図書館のアメリカ国立フィルム登録簿にミュージックビデオ(MJはショートフィルムと呼ぶ)として唯一登録された「スリラー」についてのみ語ろう。

MJ含むゾンビ軍団が踊りまくるホラー仕立て(ホラー映画へのオマージュとも言える)のこの作品は内容、クオリティー共にそれまでのミュージックビデオの概念を根底から覆し、まさに映画と呼ぶにふさわしい傑作に仕上った。以後の作品に多大なる影響を及ぼし今尚これを超えるものは存在しないミュージックビデオ界の金字塔。80年代のプロモーションは映像が大きな役割を果たし、どのミュージシャンもこぞってビデオを制作していた中で起きたMJ旋風であった。スリラーはそもそもミュージックビデオであるから御大層なストーリーがあるわけではない(尺は14分)。初っ端MJがデートのさなかに突如豹男(狼男ではない)に変身+その後のゾンビダンスまで全く息つく暇も無いほどの全編スリルだらけのエンターテインメントが展開するだけ。スリラーだけに…。あまりに上手すぎて他のプロダンサーがついてこれないほどキレキレのMJのダンス、「狼男アメリカン」でアカデミー賞を受賞したリック・ベイカーのMJ豹男変身シーン及びゾンビの特殊メイク、ジョン・ランディス(これまた狼男アメリカン監督)の完璧な演出と、全てが異常に高いレベルで融合した「スリラー」のミュージックビデオは世界中で一大ブームを巻き起こし、発売から1年経ってそろそろ頭打ちになっていたアルバム「スリラー」のセールスを再びロケットのように急上昇させたのであった。MJのミュージックビデオは「スリラー」の前に同アルバムからシングルカットされた「ビリー・ジーン」「ビート・イット」も凄かったがMJを真の世界的スーパースターにしたのはこのスリラーであろう。

当時としては破格の50万ドルの予算をかけ、35ミリフィルムで撮られたこの作品(2000年代に3D版も作られたし最近4K版が発表され画像が更にクリアに!)は制作費を捻出するためにメイキング映像の放映権をTV局に売るなどして資金繰りを行った。今では当たり前となったメイキング映像というのもここから始まったのである(スターウォーズが先かもしれないけど)。おかげで我々はその素晴らしい作品の舞台裏までおがむことが出来る。

MJが監督や女優、ダンサー、スタッフとふざけあっているシーンや豹男への変身シーンの為に型取り用ラテックスを顔に塗りたくられ何時間もじっと耐えてる映像、変身プロセスを解説するリック・ベイカー、ゾンビダンスのリハーサル、熱狂するファンの様子等いかにしてこの傑作が生み出されたかを「メイキング・オブ・スリラー」で体験して頂きたい。ゾンビのメイクは通常演者の顔を型取りしてからマスクを制作するがこのビデオでは大量のゾンビ軍団が出演するためその工程は省かざるを得なかった。しかしリック・ベイカーはその内3体程度はきっちりと型取りからの精巧なメイクを施しアップでの撮影シーンに対応した。(その内の一体はベイカー自身がゾンビを演じている。)

さて余談ではあるがこの「スリラー」という曲は原曲が「スターライト」となっており(40周年記念版に収録)MJもスタ〜ライ〜とシャウトしている。そのままの歌詞だったらあのビデオはゾンビダンスでなく別のものになってたと想像すると全くオトロシイ。世界中が興奮する事もなかっただろうなぁ…。MJは「スリラー」の後も「BAD」「ブラック・オア・ホワイト」「ゴースト」等の大作ショートフィルムを次々繰り出して話題を提供し続けた。3D大作映画「キャプテンEO」で主演を務めたり「ムーンウォーカー」というSFファンタジー映画(主演)も作ったし「メン・イン・ブラック2」にもカメオ出演している。これはもうMJが屈指のSF 野郎である証拠だろうと筆者は考えている。元々がファンタジーの世界に生きるピーターパンの様なお方。5歳からプロとして音楽界で生きてきて数々の名曲を生み出し、誰にも真似出来ない圧倒的な歌唱力とダンスパフォーマンスでスーパースターとなった。そもそも「Pow!、ダー!」とか含めしゃっくり唱法は誰も真似出来ない…。映像にも造詣が深く役者としての才能(「WIZ」等)も発揮するMJは80年代のみならず20世紀を代表するレジェンド、まさに「キング・オブ・ポップ」である。

「Making:Michael Jackson’s Thriller」60分/1983年/USA
監督:ジェリー・クレイマー
出演:マイケル・ジャクソン、ジョン・ランディス、オーラ・レイ、リック・ベイカー
ヴェストロン・ビデオ
https://www.imdb.com/title/tt0242682/