SF・ミーツ・ドキュメンタリー!

「レイ・ハリーハウゼン特殊効果の巨人」

SF映画研究家 Dr.G.Hotter(G・ホッター)

2018年公開のスティーヴン・スピルバーグ監督の「レディプレイヤーワン」は2045年の未来を舞台にVR(ヴァーチャル・リアリティ)の世界を描いたSF 映画である。オアシスと名付けられたVR の世界ではあらゆるアイテムが何でも具体化出来るという設定だ。主人公らは自分がお気に入りのアイテムをわんさか出してきてバトルを繰り広げる。現実のサブカルにおけるSFアイテムが実際に映画に登場するので、我々マニアは興奮して鼻血が出てしまう。

そのアイテムの一部を雑に紹介すると、デロリアン、金田モデル(AKIRA)、バットモービル、光電子バイク(TRON)、インターセプター(MADMAX)等のヴィークル、アイアンジャイアント、ガンダム等のロボット群、その他劇中に使用されるサウンドも80’sの楽曲群が中心で我々80’s世代(40代のオッサンら)のハートを直撃してくる。楽しい映画だなあ~と思ってたら「シンドバッド7回目の航海」(50年代の映画)に登場する一つ目巨人サイクロップスを画面に発見した。「さすがスピルバーグ、レイ・ハリーハウゼンまで網羅してる」と思った次第だ。ここからが本題である。

レイ・ハリーハウゼンは映画の製作者及び特撮マンで「ストップモーションアニメ」の第一人者だ。ストップモーションというのは骨組みを入れた立体モデル(人形)を少しずつ動かしてコマ撮りして作るアニメの事である。しかも俳優の動きに合わせて合成し、一コマ一コマ撮る毎にモデルを動かすのだから、そりゃもう大変な作業なのだ。1秒分の映像を作るのに何日もかかる。昔の映画人はこの技術を駆使して恐竜や架空の生き物を画面に登場させ、人々の度肝を抜いたのだ。邦画のゴ○ラ(←そもそもハリーハウゼン映画の影響下で作られた)を初めとする怪獣映画はモンスタースーツ(着ぐるみ)が主流であったが、洋画の場合はストップモーションアニメが主流であった。そして、スピルバーグ、G・ルーカス、J・キャメロン、T・バートン等、今やビッグネームの監督、クリエイターの方々はみんな子どもの時にハリーハウゼンの作った映画を見て育ち、「僕も大人になったらハリーハウゼンみたいな映画を作りましゅ!(←タラちゃん風)」と英語で言っていた訳である。

実際、このドキュメンタリーの中ではスピルバーグら巨匠の方々が、ハリーハウゼン作品について興味深いお話を熱く語っている。ハリーハウゼン本人も自らの作品解説を丁寧に行う。

ハリーハウゼンは「キングコング」(33年版)のストップモーションアニメを担当したW・オブライエンに師事し、瞬く間に映画界にその頭角を表した。そして「原子怪獣現る」「水爆と深海の怪物」「地球へ2000万マイル」「空飛ぶ円盤地球を襲撃す」「巨大生物の島」等のSF 作品から「シンドバッド」シリーズ「アルゴ探検隊の大冒険」等のファンタジーまで幅広く手掛け、先述のサイクロップスや骸骨剣士、ゴリラ、恐竜、大ダコ、宇宙生物、ドラゴン、メドゥーサ等動物から神話の怪物までを、まるで生きているとしか思えぬ素晴らしい動きで画面狭しと大暴れさせた。

ハリーハウゼンは己のストップモーション技術を特に「ダイナメーション」と名付けた。そして81年の「タイタンの戦い」を最後に「ワシャ引退する」と言って潔く引退した。70~80年代に映画における特撮技術(SFX )が進化し、御本人にとっての技術的限界でもあったのだろう。とはいえその後ストップモーションは更なる技術革新を遂げ、映画「ドラゴンスレイヤー」ではフィル・ティペットが、ストップモーションの弱点であった、残像が無いことの影響によるシャカシャカした映像のちらつき(フリッカー)をモデルを揺らす事で人工的に残像を作り出す事で克服し、スムーズな動きを実現した。これをゴー・モーションという。そのような進化もあったがCG を中心としたVFX の劇的進化はいかんともし難く、ストップモーションアニメは衰退した。但し、「ジュラシックパーク」(1993)ではティラノサウルス等恐竜の映像化にあたり、コンピューター・グラフィックス、アニマトロニクスと共に、ストップモーションアニメの技術も利用され、その集大成によってリアルな恐竜を画面に登場させ、その存在意義を世界に示した。

現在もストップモーションアニメで素晴らしい映画を作っているクリエイターは沢山おり、例えば「ウォレスとグルミット」「ひつじのショーン」で有名なアードマン(ストップモーションの制作会社)は大ヒットを飛ばし続けている。そして2018年5月より奇才ウェス・アンダーソン監督による日本を舞台にしたストップモーションアニメ大作、「犬ガ島」が公開される。

2013年にレイ・ハリーハウゼンは亡くなったが、そのDNA は今も尚、脈々と受け継がれているのだ。

※2018年発行サポーター通信の原稿を一部修正

「レイ・ハリーハウゼン特殊効果の巨人」93分

監督:ジル・ペンソ
出演:レイ・ハリーハウゼン スティーヴン・スピルバーグ、ジェームズ・キャメロン、ピーター・ジャクソン 他
予告編:https://youtu.be/zKut3SYRJyE
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