SF・ミーツ・ドキュメンタリー!

「バットモービル」

SF映画研究家 Dr.G.Hotter(G・ホッター)

スパイダーマン、アイマンマン、キャプテン・アメリカ、マイティ・ソー等のマーベルコミックのヒーロー達が大活躍する映画「アベンジャーズ」がシリーズ化され、それらがことごとく大ヒット、さらに個々のキャラクターのスピンオフ作品も作られ、それらもヒットした事でアメコミ映画は隆盛を極めている。一方マーベルのライバル、DCコミックも負けじとヒーロー多数出演の映画「ジャスティスリーグ」を放ったがコレは今一つヒットしなかった。しかしスーパーマン(78年)、バットマン(89年)をもって大作アメコミ映画の大きな流れを作ったのはDCコミックのヒーローであり、ワーナー・ブラザースである。という事で今回はその立役者のコウモリ男こと「バットマン」について語っていこう。

バットマンの歴史は古くその登場は1939年にボブ・ケインとビル・フィンガーが創造したコミックである。バットマンは息の長〜いキャラクターで、21世紀の現代においても人気が衰える事は全くない。バットマンがなぜにかくも長きに渡って人々を魅了するのか。それはこのキャラクターが他のヒーローと違い超人的パワーを持たない人間だからなのである。人間故にバットマンは幼い頃のトラウマをはじめ、いつもウジウジと悩みを抱えている。キャラクターとしては陰鬱である。バットマンが醸し出す暗さ、人間くささ(人間だもの)、ダークな得体の知れない魅力の源泉はバットマンの暮らすゴッサムシティの妖しさと「これ」ではないか。そしてバットマンは自身が潜在的な超人的パワーを持ってないが故、圧倒的な経済力でもって製作したスーツ、武器、自動車、船舶、航空機等を駆使してジョーカーやペンギン、トゥーフェイスら悪党共と闘う。コレがまたガジェットに弱い(特に)男子の魂を揺さぶるのである。映像となったバットマンに出てくるこのようなガジェット、特に彼の使用するヴィークルの魅力は凄まじく、特にバットマンが使用する自動車、「バットモービル」のクールな魅力は特筆に値する。バットマンとバットモービルはセットであり、バットモービルあってのバットマンと言っても過言ではない。実際のところ、少年達はもとより中年達をもこれほど熱くさせる要因はバットモービルの存在故なのではないか?これによって自身も実際にバットモービルのレプリカを作ってしまうほどに人生を狂わされたアホ、もとい、熱狂的マニアが世界中に多数存在するという事実からも、いかにこのガジェットの破壊力が凄まじいかをご理解頂きたい。バットマンコスプレをしながらバットモービルレプリカを乗り回す事が出来れば全身コレ変態、もといバットマンと化してしまい、最早周囲から何と思われようと全く気にならないほどの恍惚の境地へとドライバーを誘う事は容易に想像出来る。同様のヴィークルの例としては007シリーズのボンドカー、マッドマックスのインターセプター、バック・トゥ・ザ・フューチャーのデロリアン等が挙げられるだろう。しかしこれらは元々自動車メーカーが生産する工業製品に原型のイメージを残した改造を施したものである事を考えれば、ひと目でその辺の自動車とは全く趣を異にするバットモービルが異次元の域に達していることは誰の目にも明らかである。そしてナントそのガジェットの事だけをひたすら取り上げた「バットモービル」という書籍やドキュメンタリー映画が存在する。先ほど申し上げたようにバットマン=バットモービル、バットモービル=バットマン(同じじゃないか…)であるからコレは至極当然であろう。

さてこのドキュメンタリー映画、バットモービルがコミックに登場してからのDesignの変遷、映像で始めて登場したその辺の車をただ使用したズングリした初期モデル(グレーのコンバーチブル)の紹介に始まり、この車の人気を決定づけた、60年代のTVシリーズの実車から映画版の実車モデル計5台を一同に集めて並べてみるという夢の瞬間を描くという何ともアドレナリン全開の内容である。ああ、なんて贅沢な…。

では1台ずつまるで自動車雑誌のノリで解説しよう。バットモービルの存在を一躍人々の胸に焼き付けたTVシリーズのモデルはリンカーン・フォーチュラをベースに排気ジェットやレーダー等のギミックを満載したモデル。ティム・バートンが監督した映画「バットマン」「バットマンリターンズ」に登場するモデルはシボレーインパラをベースにボンネット部分に戦闘機のプロペラや機関銃を装備した攻撃的でセクシーなタイプ。コレはあまりのカッコよさにマイケル・ジャクソンも欲しがったという代物で、新しいバットマンのイメージを決定づけたと言っても過言ではない。続くジョエル・シューマッカーが監督した「バットマンフォーエバー」ではスケルトン仕様に変化し、やや生物的なデザインに変化した。それもそのはずこの車は当初エイリアンのデザインで有名なHRギーガーが手掛けたのだった。まるで生きた蜘蛛の様なデザインはいい線いってたが、あまりにいい線行き過ぎてヤバいという事で変更された(はあ?)。しかし独特の生物感だけは名残りとなって残ったのである。「バットマン&ロビン」に登場するものはそれをさらに派手にしてコミック風の飾り付けを行い、大型化+ルーフを取っ払ったオープンカーにしたタイプとなった。バットマンスーツに乳首をつける等馬鹿さ加減がややエスカレートしたこの頃、バットマンシリーズはクリストファー・ノーランが手掛ける事になり、リブートシリーズが始動した。そしてあの傑作シリーズダークナイト3部作が誕生したのである。ノーランもバットモービルには人一倍思い入れのある熱い男であるから、今までのデザインを踏襲することなく「ランボルギーニ+軍用車両」をコンセプトに全く新しい装甲車のようなバットモービル(タンブラーという。)を完成させた。ドキュメンタリー内でこの5台が公道をランデブーするシーンは涙がちょちょ切れるほどの感動がある。勢揃いしたバットモービルを前にした人々の感動、興奮はこちらにもビンビン伝わってくる。製作年が2012年のドキュメンタリーなので「バットマンVSスーパーマン」「ジャスティスリーグ」のモデル(やはり軍用車両然としたもの)は登場しないが、この5台をもってすればバットマンとバットモービル、ひいてはアメコミ及びSF 映画の魅力をも十分伝えられるであろう。車好きでなくても特に男子は子どもの頃にときめいたヒーローを思い出し、胸を熱くするであろう事は間違いない。男子の究極の夢、それがバットモービルだ。「人間とマシンの関係には原始的なところがあって、心の中の力強いその場所にバットモービルはぴたりとハマる」byクリストファー・ノーラン(書籍「バットモービル大全より」)。

「バットモービル」2012年(58分)
監督:ロコ・ベリッチ
出演:クリストファー・ノーラン、ティム・バートン、ジョエル・シューマッカー他
DVD「ダークナイトライジング(2枚組)」収録