SF・ミーツ・ドキュメンタリー!

「マッドネス・オブ・マックス」

SF映画研究家 Dr.G.Hotter(G・ホッター)

2015年、荒廃した未来世界(ポスト・アポカリプスというジャンル)を舞台に壮絶なカーアクションを展開する暴力映画「マッドマックス」シリーズの第4作目「マッドマックス 怒りのデスロード」が、何と3作目から30年ぶりの新作として公開された。主役がメル・ギブソンからトム・ハーディに交代していたが、監督はシリーズを一貫して手掛けている鬼才ジョージ・ミラーが続投し齢70歳超と思えぬパワフルな演出で全編ノンストップのアクション大作を作り上げた。

始めから最後までずうっとアクセル全開。しかも登場人物は主人公含め全員狂っており、まさに「MAD」で「MAX」な状態。セリフも殆ど無く、主役マックスですら「俺の車を返せ~」ぐらいしか言ってない。ひたすら映像で勝負している。恐るべし。しかもこの映画がアカデミー賞10部門ノミネートで結果として技術部門等6部門受賞という大快挙を成し遂げたのだから凄い時代になったものである。1作目のオーストラリア産やさぐれ暴力映画「マッドマックス」を観た時にはこんな事は誰も想像出来なかった。

もっとも79年に公開された1作目からこのオーストラリア発の映画シリーズは世界中の人々の度肝を抜いて来た事だけは間違いない。1作目は警官マックスがV8気筒スーパーチャージャー搭載600馬力のインターセプター(パトカー)で暴走族と壮絶なバトルを繰り広げ、製作費35万ドルで1億ドルを稼ぎ出す大ヒットを記録。当時オーストラリア映画の制作環境はかなりユルめで一歩間違ったら大事故という、今では考えられないようなスタントも平然と行われ、「この映画のスタントで死人がでた」という噂が立った程、過激なシーンがてんこ盛りであった。

続いて81年大ヒットした一作目の10倍の製作費をつぎ込んだ続編「マッドマックス2」(副題「ロードウォリアー」)は更なる終末世界を舞台に、一匹狼のアウトロー、マックスとまたまた暴走族との壮絶バトルを描き特大ヒットを記録。文明が崩壊した世界観やほこりにまみれやさぐれ感の増したマックスのファッション、モヒカンやホッケーマスクに半裸のレザーファッションという悪党どもの出で立ち、武装した物々しい改造車等はコミック界(「北斗の拳」)や映画界(「バトルトラック」「メタルストーム」「ドゥームズデイ」etc…)に大量のフォロワーを生み出した。筆者は当時小学校6年生であったが友人らと4~5人でこの作品を観に行った。(小学生がこんなの観に行くなよ…。)そして余りの凄まじさとメル・ギブソンのかっこよさに衝撃を受け、その日から全身これマッドマックスと化してしまったのである。学校に行けば「マッドマックスごっこ」で盛り上がり、劇中でマックスがドッグフードの缶詰を食べていたのを真似て(ドッグフードではないが)シーチキンの缶詰を食べ続ける等。
何の話だったでしょう…。

そして85年ハリウッド資本にて3作目「マッドマックス サンダードーム」が満を持して製作、公開された。が、この作品は残念ながらファンの期待を大きく裏切るものであった。原因はハリウッド映画となったが故に、暴力描写がお子様も観られるようにソフトでスウィートになった事、制作中にプロデューサーのバイロン・ケネディが事故死した事でこの作品の肝であるカーアクションがゴッソリ減った事等にあった。そもそも車はケネディのオタク趣味が大きく反映したものだったのである。

しかし30年後の4作目「怒りのデスロード」では見事暴力とカーアクションが復活し「マッドマックス2」のようなド迫力な作品となり、世界中で超特大のヒットと相成ったのである。

さてこの度発売された「MADMAX アンソロジーBOX」には1作目に関するドキュメンタリー「マッドネス・オブ・マックス」が収録されている。当時のスタッフ、キャストが撮影秘話や制作の裏話を喜々として語っており、低予算ながら、いかに情熱とプロ意識を持って必然的にあの大ヒット作が生まれたかがよく分かる内容である。(しかし時の流れによって全くの別人にしか見えない方もいらっしゃるが。)キャスティング、スタント、モンスターマシンの創造など盛り沢山な内容だが、これを見てわかった事は、当時だからこそできた究極のスタント、例えば暴走族のバイク転倒シーンで男が地面に叩きつけられた瞬間に別のバイクが男の後頭部を直撃するシーンがあり、いつ見てもヒヤリとするのだが、あれはCGでも何でもなく本物ならではの迫力であった。

この「マッドマックス」の凄味はその本物の部分から醸し出されているものだ。ある意味それは劇映画でありながら究極のドキュメンタリーであるとも言えるだろう。

※2017年発行サポーター通信の原稿を一部修正

「マッドネス・オブ・マックス」157分
監督:ティム・リッジ、ゲイリー・マックフィート
出演:ジョージ・ミラー、メル・ギブソン他