SF・ミーツ・ドキュメンタリー!

「月世界旅行~メリエスの素晴らしき映画魔術」

SF映画研究家 Dr.G.Hotter(G・ホッター)

1993年、スペインにてSF映画ファンがビックリ仰天する事態が起きた。SF映画の(てゆーか)映画の元祖1902年製作のお仏蘭西映画「月世界旅行」(ジョルジュ・メリエス監督)のカラー版が発見されたのだ!!これはどえらいことだ。似たようなタイミングで1927年の独逸映画「メトロポリス」(フリッツ・ラング監督)の全長版がアルゼンチンで発見されたこともあったし、よくもSFマニアを狂喜させることがこんなに続くものである。

さて奇術師だったメリエスはカメラとフィルムを用いてせっせとトリック映像を作って人々を驚かしていたが、その内、本格的な映画を作るようになり、スタジオまで用意して様々な作品を制作した。今日もっとも有名な彼の映画はこの「月世界旅行」だろう。顔のついた「月」に砲弾型ロケットが突き刺さったスチール写真などは誰もが目にしたことがあるはずだ。え、知らないって?SF映画の認知度なんて世間ではその程度なのか...。まあ、そこはよしとしよう。
この作品はジュール・ベルヌとH.G.ウェルズの「月」関連の原作をニコイチにしたものだ。普段着で砲弾型ロケットに乗り、月世界の住人に遭うという何とも牧歌的な作品だが、今から110年ぐらい昔に作られたことを考えれば、当時さぞかし人々にインパクトを与えたのだろうということは想像に難くない。おそらく今我々が3D映画(アバターとか)みて「スゲ!!」とか言ってるのと同じ感じだろう。何せ当時は機関車が向かってくる白黒映像みて観客みんながパニクって劇場から逃げちゃったそうな。

この映画はカラー版が存在してたが現存はしてないことになってて、長いことそれは幻という事になってた。その年代にいわゆるカラー映画はなかったからどうやったかというと、せっせと一枚づつネガに着色したのだそうだ。映画は14分しかないが、一枚づつ塗ってたらそりゃ大変でしょうな。そんなに何本も同様の手間をかけて作れないし、にもかかわらずそれが残っていたというのは大変なことである。

このカラー版はボロボロのクッチャンクッチャン状態であったが長い年月をかけてデジタル修復され2011年遂に日の目を見た!!そしてその修復の模様と映画「月世界旅行」の製作過程を追ったドキュメンタリーが「メリエスの素晴らしき映画魔術」という訳である。あ~ここまで来るのに長かったなあ。
このドキュメンタリー映画はトム・ハンクスなども出演し、ガラス張りのスタジオでどのように撮影がなされたか等、様々なエピソードを丁寧に描いている。このドキュメンタリーを観た後に修復されたカラー版の「月世界旅行」本編を観ると感動もひとしおである。

2011年は晩年のメリエスを描いた巨匠M・スコセッシのハリウッド映画「ヒューゴの不思議な発明」も公開されたから、SF映画の原点を見つめるいい機会だった。
皆さんもこの元祖SF映画をぜひごらんあれ。

※2016年発行サポーター通信の原稿を一部修正

「月世界旅行~メリエスの素晴らしき映画魔術」(78分)
監督:セルジュ・ブロムバーグ、エリック・ランジュ
出演:トム・ハンクス、ジャン・ピエール・ジュネ他
公式HP:http://www.espace-sarou.co.jp/moon/
予告編:https://youtu.be/YLLeVUC9Fxc