SF・ミーツ・ドキュメンタリー!

「マトリックス リヴィジテッド」

SF映画研究家 Dr.G.Hotter(G・ホッター)

技術の進歩によって映画の作り方が劇的に変わる事がままある。そしてそれはSF映画によってなされると言っていい。ジョルジュ・メリエスが「月世界旅行」を作った時に始ま
り、「キングコング」がデカイゴリラを登場させたり、「宇宙戦争」が火星人の侵略を描いたり、「2001年宇宙の旅」が人類の進化を描いたり、「スターウォーズ」が遥か宇宙の彼方の英雄譚を描いたり、「ブレードランナー」が2019年の未来を描いたり、「ジュラシックパーク」が恐竜を現代に甦らせたりした時に、様々な技術革新があった。

例えばCGIだが、その本格導入はディズニー映画「トロン」にはじまり、ジュラシックパークの恐竜辺りからどんどん進化して、あらゆるジャンルの映画に不可欠な要素となった。

今日ではパフォーマンス・キャプチャーなる俳優の動きをそのままCGに置き換えるというトンデモナイ技術があり、3D映画「アバター」等で驚異の映像を創り出している。

そこで1999年に登場した「マトリックス」である。ウォシャウスキー兄弟が監督したこの映画は、一言で乱暴に言うと「サイバーパンク・カンフーアクション映画」である。主演はイケメンで今だにブイブイ言わしているキアヌ・リーブス。ストーリーはざっくり言うと「コンピュータの支配によって仮想現実の世界(マトリックス)で生かされていた人類が、現実世界に目覚め、救世主とともに反乱を起こす」というもの。さっぱり分からないかも知れないが、この際ストーリー等どうでもいい。肝心なのは進化したCGIやら何やらを使って作り上げたカッチョよくスタイリッシュな映像だ。

マトリックス世界での戦いで主人公ネオ(キアヌ)が悪党ども(←エージェントスミスとかその一味)の放った弾丸を、後にのけぞった態勢のままシュルンシュルンと避ける場面がある。その時、なんとカメラがキアヌの周りを360度くるりと1回転するのである。「ええ〜っどうやって撮ったの今のやつ!」と当時の観客はみんな口をあんぐりと開けて放心状態になった。(もっとも映画に没頭しててどうやって撮ったかなんていちいち考えなかったかも知れないが少なくとも口は開けていた。)これがバレットタイムともマシンガン撮影とも呼ばれる新技術、被写体の周りをぐるりとカメラが囲んで順番に連続撮影するという斬新かつ手のこんだVFXであった。

アニメデシカ見タコトナイかめらわーくガ実写デモデキルノカ…。

さもありなん。「マトリックス」という映画の正体はウォシャウスキー兄弟が影響を受けた哲学書やら「甲殻機動隊」をはじめとする日本のアニメやら、ウィリアム・ギブスンの小説「ニューロマンサー」やら、香港の功夫(カンフー)映画であるから、それらの要素がぶち込んであるのは当然である。

例えばそんなアニメのカメラワークを実写でやってしまったところ、そしてありそうでなかったアメリカ映画とは思えない程に激しいカンフーアクション、レザーファッションに身を包み、グラサンをかけ、体中に武器を装備し、時には2丁拳銃で戦う主人公達等、ストーリーはさておき、観客が観たいと思っていたカッコイイ映像の全てがそこにあった。それがスゴい。結果この映画は人々の心を鷲掴みにし全世界で大ヒットした。

「マトリックス」登場の前にウィリアム・ギブスン原作でキアヌ・リーブス主演の「JM」(ジョニー・ネモニック)というSF映画もあったが、そっちはぜ〜んぜんヒットしなかったにも関わらずだ。そして「マトリックス リローデッド」「マトリックス レヴォリュージョンズ」という続編も制作され大ヒット、メディアミックスとしてコミックスやアニメ(「アニマトリックス」)、ゲームも展開された。特にゲームは元々がゲームみたいな内容の映画故、抜群の相性で、さらにウォシャウスキー兄弟もゲーム用に制作した映像をわざわざ入れ込む程の気合いの入れようだったので「エンター・ザ・マトリックス」として大ヒットした。これは映画本編と連動した映像(キャストらも出演)がゲーム内で見られるという画期的なものだった。
…しかし正直なところ映画続編2作は蛇足であった。と思う。

「マトリックス」は1作目にストーリー含め必要なものは全部ブチ込んである。主人公もしっかりと覚醒して大盛り上がりとなったところで終わるので、そこから続けるとなると、後は惰性で続けるしかないのであった。

さて1作目の後に「マトリックス リヴィジテッド」やら「キアヌ・リーブス リローデッド」等のヒットに乗っかったドキュメンタリーが制作された。

「リヴィジテッド」は主にメイキングだが、いかにしてこの映画が生まれたか、またキャストのインタビュー、新しいVFXの解説、カンフーの練習風景等が、1作目の高揚感そのままに描かれている。「1作目とドキュメンタリーだけ見ればいいのでは?」とか言ったらファンに怒られるかも知れない。

とにかく「マトリックス」が公開された後、業界はモロに影響を受け、それをパクった映画やCMが世に溢れかえったから、これはスゴい映像革命だった事は間違いない。この技術によって映画の作り方が変わったのも確かである。20年経った今も「マトリックス」は少しも色褪せる事なく素晴らしい映画だ。

そして20年経った今、ウォシャウスキー兄弟は2人揃って性転換し、ウォシャウスキー姉妹となったのであった。

※2019年発行サポーター通信の原稿を一部修正

「マトリックス リヴィジテッド」
2001年/アメリカ/120分(TV放映時)
監督:ジョシュ・オレック
出演:キアヌ・リーブス、キャリー=アン・モス、ローレンス・フィッシュバーン