SF・ミーツ・ドキュメンタリー!

「猿の惑星のすべて」

Dr.G.Hotter(SF映画研究家)

「猿の惑星」という映画のシリーズがある。「宇宙飛行士がある惑星に到着するとそこは猿に支配された惑星であり、人間は下等動物として奴隷の様に扱われていた」というストーリーだ。この作品が最初に公開されたのは1968年で、巨匠スタンリー・キューブリックのSF 大作「2001年宇宙の旅」と同じタイミングなのである。この二作品によってSF 映画の地位は飛躍的に向上した訳だ。しかし翌年アポロ11号による月面着陸の成功によって空前の宇宙ブームが起き、人々の関心は一旦現実の宇宙開発の方にいってしまった。真のSF 映画ブームが起こるのは77年の「スターウォーズ」「未知との遭遇」が公開されるまで待たなければならない。

さて「猿の惑星」は制作にこぎ着けるまでに大変な時間と労力をかけている。当時映画スタジオはSF に関心が薄く、プロデューサーの話をまともに取り合わなかったらしい。「SF ?お子さま向けって事ねん」「猿の惑星?コメディって事ねん」という反応だったそうな。当時は精巧な猿メイク技術なんか無かったし第一「お猿」の映画なんてふざけているぢゃないかという訳だ。まあどこの組織でも上層部のジジイというのは何もわかっていないものである(この映画会社の事ではありませんよ)。しかしプロデューサーはめげなかった。SF ファンなら知らぬものはいないTV シリーズ「トワイライトゾーン」の脚本家ロッド・サーリングを起用し内容を練り上げ、驚愕の猿メイク技術も開発させ、それを持ってデモ映像を制作した。そこでやっとお偉方のゴーサインを得たという。そんな苦労を乗り越え制作、公開された「猿の惑星」は超特大のヒットを記録。社会現象となったのである。特にロッド・サーリング入魂の衝撃的ラストは人々をあっと言わせた。ジジイ(誰だよ)は大喜びでホクホクしながら、「それ続編を作れ」「しかも安く作れ」「いや、あのラストから続けるのは無理ですよ」「稼げるうちに稼ぐんじゃボケ」「どうせ客なんか猿さえだしとけば内容なんかどうでもわかりゃせん」「何なら犬の惑星にすればよし」というようなやり取りがあったとかなかったとか…(会話は筆者の想像でありフィクションです)。

そしてあろうことか○×△○×▽という続けようのないラストだったのにも関わらず「続・猿の惑星」(←更に続けようのないラスト)「新・猿の惑星」「猿の惑星・征服」「最後の猿の惑星」と4作品が作られいずれも大ヒットしてしまったのであった。20世紀○×△という会社おそるべし。

ところで一作目は白人の主人公テイラーがずーっとひどい目に遭っている映画だ。ムチで打たれたり水攻めにあったり火を押し付けられたり服を着せてもらえなかったりと、そりゃもうあり得ないほど酷い扱いなのである。テイラーは映画「ベンハー」等でマッチョな男のイメージが強かったチャールトン・ヘストンが演じている。よくこの役を引き受けたものである。この映画、諸説あるが猿は黒人のメタファーであるとか、原作者が戦時中捕虜になった経験が元ネタで猿は日本人のメタファーである等と言われている。そういう視点で見ると全く別の見方が出来る奥の深~い映画である。

ドキュメンタリー「猿の惑星のすべて」にはここまでに筆者が述べてきた「どうでもいい話」と「興味深い話」のうち後者の方が描かれている。「猿の惑星」はその後テレビシリーズやアニメになったり様々な亜流を生みながら、おおいに社会に影響を与え進化してきた。筆者が子供の頃にテレビでみた日本の特撮モノで「猿の軍団」というのがあったが「猿の惑星」の影響下で作られた事は間違いない。日本人のミュージシャンで「コーネリアス」という世界的に有名なお方がいらっしゃるがこの名前は「猿の惑星」に出てくる重要な猿キャラからとられているそうだ。

そして2001年満を持してオタクの星、ティム・バートン監督が「猿の惑星」のリメイクを完成させた。随所にオタクのこだわりが見てとれるのだが、まず猿の特殊メイクは30年の時を経て驚愕のレベルアップを果たしている。それもそのはずこれを担当したのは「スリラー」のゾンビメイク等で知られる特殊メイクの第一人者でアカデミーメイクアップ賞受賞歴もあるリック・ベイカー様である。ベイカーはエイプクレイジーの異名をとるほどの「お猿」好き。それまでもターザン映画「グレイストーク」や「マイティジョー」等で見事な猿メイクを手掛けてきた。「キングコング(77年版)」では何と制作したゴリラスーツに自ら入り嬉々としてコングを演じ、正に全身これ「お猿」と化してしまったのである。(←これが言いたかった…。)そしてバートンは「言葉」にもこだわっている。そもそも「猿の惑星」は英語タイトルを「Planet Of The Apes 」といい猿を表す単語は「monkey 」ではなく「ape 」が使われている。アメリカの方々はどちらも「猿」という事で認識しているそうだが映画ではape は「猿人、類人猿」という意味を強く持たせているようだ。特にバートン版では「monkey 」という言葉を使うと猿が激怒し「お猿とは何だ!猿人と呼べ!」というシーンもある。またバートンは「これはリメイクではなくリ・イマジネーションである」とも言っている。焼き直しではなくコンセプトだけ借りたオリジナルストーリーであるとの事だ。はいはいわかりましたよ。ちなみにこの映画はあんまり世間の評価が高くなかった…。

その10年後の2011年「猿の惑星」はリブート(再起動)版が全く新しいストーリーで復活した。(「創世記」と「新世紀」。)ここでまた猿の描写は究極の進化を遂げ、もはやどう見ても本物のお猿にしか見えないレベルに達した。これはパフォーマンスキャプチャーというVFX の技術で、俳優に演技させた後でその俳優の姿をそっくりCG のお猿に差し換えるものだ。このリブートシリーズは大ヒットし好評を得ている。

一作目から半世紀。「猿の惑星」シリーズは映画の技術革新の歴史でもある。そしてリブート版最新作「猿の惑星 聖戦記」が今秋公開予定だ。お猿で50年(「エイリアン」で40年)も稼ぐ20世紀○×△という会社おそるべし。(あっ、SF ファンが大好きな会社ですよ、いつもお世話になっております。)

※2017年発行サポーター通信の原稿を一部修正

「猿の惑星のすべて」
監督:デヴィッド・コムトイス ケヴィン・バーンズ 出演:ロディ・マクドウォール
(猿の惑星35周年アルティメットエディション収録)126分