解説

たったひとりでも現実は変えられる。田中さんは30年間、毎日ひとりで、いまも歌い続けている

田中哲朗さん。63歳。
30年前に毎朝のラジオ体操を拒否したために大手電機会社を解雇された。
それ以来、抗議のために会社の前で毎朝プロテストソングを歌い続けている。
携帯もない、インターネットもない、もちろんfacebookもない、
そんな時代からたったひとりで大きな力と闘ってきた。

そんな田中さんの姿をカメラに収めたのは、
オーストラリア人女性監督マリー ・デロフスキー。
インターネットで偶然見つけた田中さんに興味を持ち、
ドキュメンタリー映画をつくるために来日。

テンガロンハットを被り、木刀で鍛錬する田中さんの姿は“外人ガイジン”の彼女にどう映ったのか?
ブロークンな英語でやりとりし、時にはぶつかり合うふたり。
田中さんを通して見えてくる現代ニッポンの姿をユーモアたっぷりに映し出す。

邂逅

オーストラリアの映画監督マリー・デロフスキーと、彼女の夫で民俗学者のマーク・グレゴリーはインターネットで田中哲朗さんのウェブサイトを見つけ彼の活動を知る。 田中さんの粘り強い、長期にわたる闘いに関心を持った彼らは、抗議活動25周年の記念日にあわせて、本人に会いに日本へやってくる。 監督とプロデューサーでもある夫のマークは、田中さんの一連の抗議行動や日本について理解するため、彼の支援者にも会う。

君が代を歌わない自由

その中には、都内中学校の家庭科教師であった根津公子さんも含まれていた。
第二次大戦中、天皇家をたたえるものとして軍隊でも歌われていた『君が代』が国歌とされているが、学校の公式行事で『君が代』の起立斉唱を強制することに対して、根津さんは不起立(立たず歌わない)の行動を続けている。

彼女の闘争は自身の教職としての立場を脅かしており、3カ月の停職処分を受けている(その後、6カ月の停職処分を3度受けており、社会問題に発展している)。そんな状況でも、彼女は毎日校門の前に通い、田中さん同様、自らの主張を訴え続けている。 「(『君が代』を歌う、歌わないの)選択の自由がないのは独裁国家と同じだ。」彼女は熱く語る。

オーストラリア人監督が発見した“日本”

オーストラリア人監督は田中さんや根津さんとの出合いを通じて、芸者や桜、原宿の若者、秋葉原の電気街といった、従来の日本のイメージとは全くかけ離れた世界に引き込まれていく自分に気づく。田中さんが、いじめを恐れて不登校でいる少年トメオの家庭教師として、人権の意味やいじめに対処するための自己防衛手段も伝えながら音楽を教えているシーンがあるが、この映画のトーンは決して啓発的ではない。

田中さんが醸し出す愛嬌・ユーモアにあふれた雰囲気、家族の温かさが全編を包んでいる

『田中さんはラジオ体操をしない』は、これまでの目覚ましい経済成長のなかで生きてきた日本人とは異なる人生観を提示したドキュメンタリーである。そこに写し出される田中哲朗さんは、時には辛らつだが、ユーモアたっぷりで、そしてあくまでも前向きである。まぎれもなく現在の日本に必要な、誠実で反骨心のある一人の日本人の闘う姿である。

ページトップへ

2011年7月2日(土曜日)より新宿・K'sシネマにて