SF・ミーツ・ドキュメンタリー!

「メイキング・オブ・トータルリコール」

SF映画研究家 Dr.G.Hotter(G・ホッター)

今から約30年前の1990年に「トータル・リコール」は公開された。真の意味でアーノルド・シュワルツェネッガー(以下シュワちゃん)をスターダムに押し上げた大傑作SF映画である。時が経つほどに存在感を増していくような凄みがこの映画にはある。内容は「脳が現実と区別出来ないほどのヴァーチャル体験が可能になった2084年の未来。仮想の火星旅行を楽しむ為にリコール社を訪れ記憶装置にかけられたクエイド(シュワちゃん)は、過去に消されたはずの火星の記憶を呼び覚ましてしまい謎の組織に追われる身となってしまう。コレは夢か現実か?」といった内容。原作はブレードランナー、マイノリティーリポートの原作等で知られるフィリップ・K・ディックの「追憶売ります」、脚本はエイリアンのダン・オバノン、ロナルド・シュゼットら、監督はオランダ出身でエロ・グロ・ヴァイオレンス(ナンセンスではない)の天才ポール・ヴァーホーヴェン。音楽は巨匠ジェリー・ゴールドスミス、特殊メイクは業界の第一人者ロブ・ボッティン!この布陣で傑作にならない訳がない。そして主演はシュワちゃん(以下シュワ)である。オーストリア出身でボディビルダーだった彼は69年に「SF超人ヘラクレス」で映画デビュー。キワモノ作品の上、酷いオーストリア訛の為に吹き替えも行われた。その後シュワは鳴かず飛ばずの状態が続いていたが「コナン・ザ・グレート」シリーズで一躍名を上げる。しかしコレもマッチョが売りのアクションでセリフも殆ど無し。とにかく訛がひどく「シュワに喋らせてはいかん」ということになってしまったそうな…知らんけど。しかしその後ジェームズ・キャメロン監督の「ターミネーター」で悪の殺人機械T-800役に抜擢されコレが大当たり。機械だからカタコトのセリフが逆にピタリとハマり、その後のシュワ人生を一変させたのである。「サラ・コナーか?」「アイル・ビー・バック(戻ってくるぜ)」「F○○K YOU ,A○○ HOLE!(バカ野郎!)」「GET OUT!(降りろ!)」ぐらいしかセリフらしいセリフもない最高の悪役であった。どこがセリフらしいセリフなんだ?…とにかくここからシュワの快進撃が始まった。「コマンドー」「ゴリラ」等スタローン映画(ランボー、コブラ)の亜流みたいなのが続いたのはご愛嬌として「プレデター」「バトルランナー」とSF怪作が続き、演技はともかくシュワを出せば売れる!と次々と主演映画が放たれた。88年にはアクション大作「レッドブル」とコメディ「ツインズ」をダブルでヒットさせ映画会社上層部のジジイは誰も文句を言わなくなった。それまで英語でアーノルドという名前は「マヌケ」という意味があったそうだが、シュワのおかげでそのイメージも払拭された。そして満を持して長年シュワが切望していた企画「トータルリコール」が制作され、めでたく主演と相成った訳である。大物プロデューサー、ディーノ・デ・ラウレンティスがこの企画を頓挫させた瞬間、シュワが映画スタジオのカロルコに映画化の権利を買い取らせ、監督ヴァーホーヴェンを逆指名するほどの熱の入れっぷり。ディーノに主演をダメ出しされていただけにシュワはその反動で全身これリコールと化してしまったのである。まさにトータルリコール!!はぁ…?設定も主人公を気弱な会計士からマッチョな肉体労働者に変更!まさにシュワのシュワによるシュワの為の映画、それがトータルリコールだ。映画は超ド級のアクション超大作かつヴァーホーヴェン節のエロ、グロ、ヴァイオレンスが炸裂した大傑作に仕上がり超特大ヒットを記録、シュワを正真正銘のハリウッドスターに押し上げた。この作品後のシュワの快進撃については皆さんがご存知の通り(「T2」「トゥルーライズ」等の大ヒット、カリフォルニア州知事に就任等)。

 さて「メイキング・オブ・トータルリコール」は金を死ぬほどつぎ込んで製作されたこの映画の興味深い制作過程について、シュワ、ヴァーホーヴェン初め、脚本のシュゼットや特殊メイクのボッティンがその舞台裏を解説している。まずこの企画は長年かかっているだけに脚本は40回以上書き直されたそうな。しかも決定稿ですら後半部分の話が破綻しており、あのどんでん返しに次ぐどんでん返しは制作と並行して練り上げられたものとの事。プロダクションについては最後のアナログ特撮が冴え渡り全編見どころだらけだ。未来世界は「ブレードランナー」に比べると雑で安っぼく下品であり、ワーゲンのシャーシを利用したという自動車等はハリボテ感満載だがそれがこの作品のテイストによく合っている。撮影はメキシコで行われ、コンクリートむき出しのニューブルータリズムという建築様式の建物は映画でそのまま使用され、世界観の構築に役立った。ロブ・ボッティン渾身の特殊視覚効果+特殊メイクではロボットのタクシー運転手が作り物であるにも関わらず豊かな表情で軽快なトークを繰り出し笑える。また火星の空港でデブリンチョのオバハンに変装したシュワの変装がバレて正体を表すシーンは劇中1番のSFX(特殊効果)の見どころと言えるだろう。係員に「いつまで火星に滞在しますか?」と聞かれ「Two Weeks(2週間)」と答えたまではよかったが、変装装置が壊れ何を聞かれても「Two Weeks」としか答えられず周囲の人々が啞然とする。するとオバハンの顔が10分割し、中からシュワが登場する。こんなキテレツな道具必要あんのか…?なんちゅうアホな設定。滅茶苦茶なんだけど…。コレは分割する頭、中のシュワともにダミーヘッドとの事。言われなければわからない程の完成度である。火星の住人であるミュータントの造形、火星の地表に放り出されたシュワの目玉が飛び出すシーンもボッティンの仕事。素晴らしい出来だがこの辺の下品さとやりすぎ感がヴァーホーヴェンテイストなのだ。またアナログ全盛のこの時代にCGも取り入れ、地下鉄の荷物検査のシーンで通行人とシュワがX線装置によりガイコツを透過されるのも見どころである。コレはモーションキャプチャーで制作しようとしたが上手くいかず結局アニメ処理等したとの事。クリエイターのティム・マクガヴァーンによってその苦労話が聞ける。莫大な予算を投じ緻密な絵コンテを忠実に再現したこの作品は特撮場面の宝庫だ。

 「トータルリコール」は全編見せ場の連続で多少話の辻褄が合わなくもどんどん突き進んでいく。この疾走感が本作をシュワの最高傑作たらしめているのだ。ヴァーホーヴェンはハリウッドでSFかエロサスしか撮ってないが、SF作品「ロボコップ」「トータルリコール」「スターシップ・トゥルーパーズ」は連続で観るとまるで三部作のような統一感がある。キャストも一部被っているし暴力やグロのテイスト、映像のテンポ、未来世界の描写用に劇中で未来グッズのCMをバンバン流してみせる手法も同じである。ヴァーホーヴェンは作品が売れても「同じことはしない」と言って続編は撮らないお方。「ロボコップ」「トータルリコール」「スターシップ・トゥルーパーズ」とも別な監督で続編、TVシリーズ、リメイク等制作されているがテイストが変わって残念な作品も多かった。しかしヴァーホーヴェンはしっかりと別の作品で続編的に我々を楽しませてくれていたのである。筆者はコレをヴァーホーヴェンSF三部作と呼びたい。余談だか日本が世界に誇るSFコミック「コブラ」が記憶装置を使って自分を取り戻すシーンがこの映画に似ているが、どちらも傑作故、野暮な事はいいっこなしである。だったらわざわざ言うなーっ!

さあシュワとヴァーホーヴェンの奇跡のコラボである本作をメイキング含め是非ご覧頂き仮想の火星旅行をお楽しみください。「Call Recall(リコール社にご連絡を)!!」
(2021/8/21)

「メイキング・オブ・トータルリコール」
2001年/32分
監督ジェフリー・シュワルツ
出演:アーノルド・シュワルツェネッガー、ポール・ヴァーホーヴェン
「トータルリコール」blu-ray版収録

Facebookページ
Twitterをフォロー
第8回うらやすドキュメンタリー映画祭