SF・ミーツ・ドキュメンタリー!

「メトロポリス事件」

SF映画研究家 Dr.G.Hotter(G・ホッター)

「SF 映画の原点にして頂点」とSF雑誌の編集者で、膨大なSF映画のグッズコレクターでもあった故フォレスト・J・アッカーマンは言った。1926年ドイツで製作されたモノクロサイレント映画「メトロポリス」の事である。フリッツ・ラング監督のこのSF 映画は100年後のディストピアな未来を舞台にしており、作られてから実際に100年近く経った現在も全く色褪せる事はない。それどころかむしろモダンな印象すら受ける程の完成度である。この作品は以降のあらゆるSF 映画や文化、建築に影響を与えただけでなく、まだまだこれから先の未来をも提示するほどの先進性と革新性を備えていた。
時代の最先端をいっていた当時のドイツ映画は「カリガリ博士」等の表現主義から新即物主義への移行期であった。

ストーリーは「権力者層と労働者層に二極化された未来都市(メトロポリス)。労働者層のシンボル的存在マリアにそっくりなロボット(アンドロイド)が現れ、労働者を先導し暴動を起こしカオスな状況となる。メトロポリスに秩序はもたらされるのか?」といった感じ。
監督の伴侶にして脚本家のテア・フォン・ハルボウは当時の社会情勢(ワイマール共和政等)を巧みに取り込んでストーリーを作り上げた。しかしラストの描写等でフリッツ・ラングと意見が合わず、後にはこれが原因で離婚したとの事。何にせよ1300万マルクの大金と数万人のエキストラを導入して210分(フィルムの回転速度にもよるが。)に及ぶ空前絶後のSF大作は出来上がった。

圧倒的な未来都市のビジュアルは今の目で見ても全く古臭さを感じさせない。
1982年公開のSF 映画の金字塔「ブレードランナー」の未来都市もこの「メトロポリス」の影響をモロに受けておりスピナー(未来の空飛ぶ警察車両)がビルの屋上に着陸するシーンに至ってはまんま同じ建築物デザインである。そしてあまりにも有名なロボット(アンドロイド)マリアのデザインは後のスターウォーズに出てくるC-3POに瓜二つである(因みにR2-D2は1956年のSF映画「禁断の惑星」のロビー・ザ・ロボットを元ネタとしているそうな)。勿論スターウォーズがマリアを参考にした訳だが世界初の映画へのロボット登場にしてこのクオリティ。…と言いたいところだがその数年前にイタリア映画「メカニカルマン」にずんぐりむっくりのロボが登場してるので初ではなかった。しかし1950年代ぐらいまでロボといえば真四角でギッタンバッコンと歩く昭和レトロ玩具のブリキロボや「ロボットカミイ」(←絵本。知ってる?)みたいなデザインが主流だった事を考えれば、大正時代にあの斬新なビジュアルの登場は奇跡としか言いようがない。

特撮にも触れておこう。大都市のビル群にサーチライトが当たる壮大なオープニングシーンは絵画トリック(アニメーション)。そしてビル群はミニチュアの模型でも撮影されているが、高速道路を走る自動車はミニカーを使ったストップモーションアニメによるものだ。そして群衆シーンは多重露光(シュフタン・システム)によって例えば1500人が数千人に見えるような効果を上げている。
更にビルとビルを繋ぐ連絡通路を人が歩くシーンでは、ミニチュアのビルに取り付けた通路に鏡を張り、そこに歩く人間を映りこませる鏡合成が使われている。
そしてTV電話等現在では実用化されたツールも、およそ100年前の映画の中でしっかと登場させている。

このようにケタ違いのスケールで製作された「メトロポリス」であったが、公開されると流石に巨額の製作費を回収するには至らず(てゆーかコケた)、これによって映画会社ウーファは巨額の損失を出して倒産した。ハリウッドや諸外国での公開の際はストーリーが理解出来なくなるほど無残に短くなった編集版(114分、104分等)が使用された。

世界中に散ったメトロポリスのフィルムは無残に切り刻まれオリジナル版を見ることは不可能となった。しかしそこは稀に見るハイクオリティのSF映画である。時間が経てば経つほど評価が上がり世界中から集められたフィルムを繋いで完全版を復元しようという試みが幾度もなされ、現在では2002年のクリティカル版123分、2010年の完全復元版150分を鑑賞出来るようになった。
ドキュメンタリー「メトロポリス事件」は上述の内容含めこの映画の制作過程を丁寧に描いており、歴史的超大作の裏側を知るのにうってつけである。

最後にメトロポリス復元の歴史の中でも一風変わったジョルジオ・モロダー版に触れておこう。
1984年、公開から半世紀以上経った頃、その先進性とサイレント(無声)映画ならではのパントマイム感がプロモーションビデオ全盛のMTV時代にピタリとハマると考えたのだろう。フラッシュダンスやトップガンのサントラ等を手掛けたドイツの大物音楽プロデューサー、ジョルジオ・モロダーがメトロポリスを観て「この映画モロだ〜」と言ってメトロポリスの権利を取得し、音付き、色付きに大胆にリニューアルした。(前述のセリフは筆者が中学生の時に雑誌「シティロード」の紹介文に載っていてめちゃくちゃ笑った覚えがある。)フレディ・マーキュリー、パッド・べネター、アダム・アント等の80年代をブイブイ言わしていたアーティストを集め、各シーン毎にピタリとハマるロックな楽曲をあてモロダー版は完成し、世界中で公開されると一世を風靡した。尚、ロックバンドのQUEENはフレディ繋がりによるコネ(ですよね)でこのメトロポリスのフィルムを一部使用し、名曲「Radio GA GA」のプロモーションビデオを制作した。

完全復元版、モロダー版、切り刻まれたバージョン、どれを観ても1つ明らかなのはこの作品はやはり「SF 映画の原点にして頂点」という事実である。

「メトロポリス事件」
2002年/44分
フリードリヒ・ヴィルヘルム・ムルナウ財団
DVD「メトロポリス」クリティカル・エディション収録

Facebookページ
Twitterをフォロー
第8回うらやすドキュメンタリー映画祭